「シェア」の概念が変える、新しい時代の私たちの暮らし

2020.12.26

    “所有する社会”から、“分かち合う社会”へ──。そんなシェアの概念が注目を集めるようになってしばらく、私たちの身の回りには、Airbnb、Uber、メルカリなど、シェアリングエコノミーを前提とするさまざまなサービスが普及し始めています。「シェアはこれからの時代を幸せに生きるために欠かせないキーワード」と語るのは、ご自身も日々の生活においてシェアを実践されており、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師としても多方面で活躍されている石山アンジュさん。本記事では、「シェア」をキーワードに、私たちのライフスタイルの変化やこれからの住まいのあり方などについて、石山さんにお話を伺いました。

    石山 アンジュ(いしやま あんじゅ)
    1989年生まれ。国際基督教大(ICU)卒業。内閣官房シェアリングエコノミー伝道師。一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長、総務省地域情報化アドバイザーのほか、一般社団法人PublicMeetsInnovation代表なども務める。シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルの提案を始め、 NewsPicks「WEEKLY OCHIAI」レギュラーMC、拡張家族「Cift」メンバーなど、幅広く活動。近著に『シェアライフ-新しい社会の新しい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

    編集者の注目ポイント

    ①経済的に豊かになったことで、元来あったはずの共助やシェアの概念が薄れていった。
    ②今後は経済的な豊かさよりも、選択肢の幅(働き方、暮らし方、人間関係)の豊かさが重要になる。
    ③これまでの悩みのほとんどは「大きなものを失ったらどうしよう」というもの。
    ④複数の選択肢を持つことで、上記の悩みがなくなっていく。

    シェアこそが、これからの社会的な豊かさを実現する希望

    ──まずは、石山さんの「シェアがこれからの時代に欠かせないキーワードである」というお考えについて、改めてお聞かせいただけますか?

    現代の社会において失われているものの一つが、特に共助の概念です。言い換えるのであれば、それはコミュニティにおける共同体意識。ひと昔前であれば、行政や企業に頼らなくとも地域の人たちで一緒に子どもたちを育てたり、何かあったら助け合ったりということが自然とできていたものが、現在では、特に都心において核家族化や単身世帯化が進み、人とのつながりの中で生活を助け合っていくといった意識が失われてしまっているんです。

    これをどうしたら新しいカタチで再構築できるかという考えが、シェアリングエコノミーの可能性であり、シェアの思想。エコノミーである前に、そもそものシェアの概念、つまりは「分かち合う」「支え合う」といった思想こそが、分業化や個別化が進んでいる現代において、社会的な豊かさを実現する大きな希望になると私は考えています。例えば、子育てや介護などにおいても、それを1人が負担するのではなく、これからはもっと複数人で支え合っていくような仕組み化を進める必要があるでしょう。

    シェアリングエコノミーというと、現在ではUberやAirbnbなどが筆頭に挙げられていますが、それ以外の住まい選びやライフスタイル選択という点においても、シェアリングエコノミーは今後より大きな影響を持つようになるはずです。例えば、シェアハウスの中には、どんな人と共同生活を送るか、インターネットのプラットフォームを通じて事前にわかるところもあります。シェアリングエコノミーは信用の上に成り立つ経済の仕組みでもあるので、インターネットやSNSを通じた信用の再定義が可能になることで、住まい選びや暮らし方のカタチもより多様化していくのではないでしょうか。

    ──ちょうど住まいの話題にも触れていただきましたが、石山さんはそういったシェアの思想を体現されながら、共同コミュニティ「Cift」の代表理事として、現在も“拡張家族”としての生活を送られているんですよね。

    はい。Ciftはもともと、クリエイターたちが交差しながら新しいライフスタイルを実践する実験的コミュニティとしてスタートしました。2017年に1拠点38人からスタートしたCiftも、3年経った今は3拠点に増え、現在では100名を超える規模の拡張家族になっています(2020年11月現在)。

    一般的なシェアハウスの共同生活の場合、初めて会ってから各々が信頼を積み重ね、その結果として相手が大事な存在になっていくのが普通の流れ。一方Ciftの場合は、それが180度異なり、入居段階から家族面談を経て、お互いの合意のもと家族関係になることが大きな特徴です。あえて最初から家族になる、そしてその人数を増やしていくことで、最終的には地球の端から端まで家族となっていくことが世界平和につながっていく。そんな想いがCiftの根本的なコンセプトには置かれています。

    私自身も、ここでの拡張家族生活を通じて、「家族」のつながりがより深化していっているような感覚を覚えています。同居するメンバー同士で価値観の違う部分があったとしても、「家族だから」「長い時間軸の中で共にいたいから」というところでお互いを尊重し合うので、深い関係になっていくんです。私にとって、Ciftは愛の道場のような場所。その言葉通り、ほんとうに日々修行している感じですね(笑)

    暮らしは、住むものではなく、創っていくもの

    ──2020年のコロナウイルス(以下コロナ)は、個々人の働き方や暮らし方にも大きな変化をもたらしました。石山さんご自身、緊急事態宣言以降の働き方や暮らし方にはどのような変化がありましたか?

    私自身、東京のCiftでの生活含め、1年半ほど前から大分との2拠点生活をしているんですが、以前は月5日程度しか大分にいられなかったのが、コロナ以降はさまざまな仕事がオンライン化されたことで、物理的に東京にいなければならないことが大幅に減りましたね。コロナによって、「これまで以上に予測できない時代に私たちは生きている」ということを誰しもが再認識させられました。コロナが収まってもまた新しいウイルスが来るかもしれないし、他にも新しい自然災害が起こるかもしれない。そのリスクと常に共存していかなければならない時代がこれからも続くということを、誰もがリアルに感じるきっかけになったのが2020年だったと感じています。

    一つのものにしがみついていると、何かが起きてしまった時にしんどくなってしまうということ。それは働き方だけでなく、暮らし方においても同様だと思います。働き方も暮らし方も、人間関係も、シェアすることで複数の選択肢がある状態になる。私で言えば、東京の他にも大分があるといった状態ですね。仕事で言えば、Aの仕事がダメでもBの仕事があるという状態。そういったシェアの概念によって選択肢を分散させる生き方こそが、これからの暮らしにおける一つの幸せのモデルになっていくのではないかと私は考えています。

    ──東京と大分との2拠点生活というお話もありましたが、2拠点を行き来する生活の中で、石山さんにとっての住まいにはどのような変化がありましたか?

    大分にいる時間が増えたことで特に感じたのは、自然との共生を意識した暮らしの意義や大切さですね。コミュニティ的なつながりという意味では東京も大分も大きく変わりませんが、大分の家は、田舎の農村集落にポツンとある元々10年間空き家だった築90年の古民家。水も湧き水を通したりしていたり、太陽光だったり、畑で野菜をつくっていたりします。集落のおじいちゃんおばあちゃんたちには、自然と、そのような自然との共生を意識した暮らしが根付いているように思います。そういった生活をしている中で、暮らしというものは自分たちで創っていくものなんだと思うようになりました。

    言い換えるならば、サステナブルに地球とどう接していくかを、暮らしの中でより意識するようになったということ。なぜなら、私たちは地球の上に住んでいるので、自然との共生というのは暮らしの中でそもそも必要不可欠なものであるはずなんです。これはずっと東京にいるだけでは気づかなかったことだなと今改めて感じています。

    ──それでは、これからの私たちの暮らしにはどのような視点が求められると石山さんはお考えでしょうか。

    SDGsやサステナビリティといったことが昨今言われていますが、どうしたらサステナブルな暮らしをしていけるのか、改めて個々人がしっかり考えるべきだと感じています。ペットボトルを使用しないとか、プラスチックを使用しないとか以前に、水も電気も二酸化炭素も、一番のエネルギーコストは私たち人間の暮らしです。それを踏まえて、一人ひとりが実際にどこまでサステナブルな暮らしを実践できるのかはとても大事な視点だと思います。

    ソフト面で言えば、都会のマンション生活などでは、隣に誰が住んでいるのかわからないようなことが今では普通になってしまっているので、どのようにコミュニティや人とのつながりを作っていけるのかがより重要になっていくでしょう。それを行政任せにするのではなく、一人ひとりがマネージしていく必要があると思っています。現代は、インターネットやSNSの普及で、価値観で人とつながることが以前に比べて容易になっているはず。Ciftも同じ価値観でつながる仲間たちが集まって共同生活をしているので、コミュニティの再設計が、現代における新たな共助コミュニティのカタチに成り得るのではないでしょうか。

    人と人とのつながりを生み出す場としての住まいを

    ──最後に、これからの時代にマッチする住まいとはどのようなものか、石山さんのお考えやアイデアがあればぜひ伺えますでしょうか。

    個人的には、「働く」や「暮らす」が複合的にシェアできる住まいができればいいなと考えています。今の住まいは、例えば賃貸で言うと、基本的にただ住むためだけのスペースになっていることがほとんど。そこに、子育てや介護を誰かに頼めるなど、シェアリングエコノミーを踏まえたコミュニティ形成までセットになっているような物件があれば、とても魅力的ですね。加えて、Ciftが一つの例ですが、そこに住む住人同士で新しい仕事が生まれるような住まいが今後はもっと増えていい気がします。住人同士のコラボレーションが日常的に起こるような、住まいのカタチからその機会を促すような場づくりも、これまでのさまざまな事例を見れば十分可能なはずです。

    その他、自分で住まいをDIYできる物件などが今後増えても良いのではないかとも思っています。私の大分の住まいは賃貸なんですが、ペンキを塗ってもいいし、壁をはがしてもいい古民家なんです。住まいを改造できたり、自分の好きな空間に変えられるのであれば、その行為自体が暮らしを創っていく感覚に直結します。既存のシステムの賃貸物件では、不動産会社の物件に住ませてもらっている感覚が抜けないと思うので、カジュアルに住まいをDIYできるような物件が増えたら、「住まいは自ら創るもの」という感覚が広く根付くと思いますし、個々人が自らの暮らしを楽しむことにもつながるでしょう。

    ちなみに他拠点生活という観点で言うと、近年では「ADDress」のように、一つのコミュニティに入れば、そのコミュニティ内の複数拠点に滞在できるというサービスもあります。個人で拠点を増やしてくのはハードルの高さもあるとは思いますが、同サービスのように、ひとつのIDを持って複数拠点を自分の居場所のように持つことができるサービスが増えていけば、時代にマッチした暮らしの選択肢も広がっていくのではないでしょうか。

    ──石山さんのお話を伺っていると、これからの住まいに求められるものは、やはり人と人とのつながりと言いますか、地縁づくりまでを考えた場づくりであるような気がします。

    その通りだと思います。パブリックスペースやコワーキングスペースなど、現在も場づくりのカタチは色々とありますが、日本人は特にシャイなので、ただスペースを作るだけでは人と人とはそこまで交わらないんです。例えばそこにコミュニティマネージャーのような人を置いて、価値観の合う人同士をつないであげればいいのではないでしょうか。ディベロッパー的な街づくりという意味でも、そこを担う人がいるかいないかだけで、コミュニティの機能は大きく変わると思っています。

    パブリックスペースのデザインの仕方も重要になってくるでしょう。全く異なるセクターの人たちが同じ空間に集い、居心地の良いものにしていくことは難易度が高いです。住まいという枠組みにおいて、今後パブリックがどのようにデザインされていくのかは、私自身、ディベロッパーに期待したい部分ですね。

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