働き方の変化から、これからの住まいのあり方を考える

2020.12.22

    いまなお世界的な猛威をふるっている新型コロナウイルスは、わたしたちの私生活だけでなく、企業やコミュニティのあり方、そして個々人の働き方にも多大な影響を及ぼしています。“新しい日常”の中で、わたしたちは住まいとどのように向き合っていくべきなのでしょうか──。本記事では、国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」の主催や著書『これからの僕らの働き方』(早川書房)の執筆など、働き方のスペシャリストとして多方面で活躍されている横石崇さんに、コロナ禍における世の中のワークスタイルの変化、そしてこれから先の住まいのあり方などについてお話を伺いました。

    横石 崇(よこいし たかし)
    &Co.,Ltd.代表取締役/Tokyo Work Design Weekオーガナイザー
    1978年大阪市生まれ。多摩美術大学卒業後、広告代理店、人材コンサルティング会社を経て、2016年に&Co., Ltd.を設立。テレビ局、新聞社、出版社などのメディアサービス開発を手掛けるほか、企業の組織開発や人材育成など、さまざまな場の編集に携わる。毎年11月に開催している国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では、6年間でのべ3万人を動員。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」支配人。法政大学兼任講師。著書に『これからの僕らの働き方』(早川書房)、『自己紹介2.0』(KADOKAWA)がある。

    編集者の注目のポイント

    ①コロナ禍で、「住む」という概念自体がアップデートされてきている。
    ②住まいを選ぶ際の判断材料の優先順位が変わってきている。
    ③職住一体の住まいは、人間らしい暮らしができる場であることもとても重要。
    ④シームレスな住まいこそが、職住一体の住まいとしてひとつの究極系である。

    すべての人類は、住まいと真剣に向き合うことになった

    ──横石さんは、新型コロナウイルス(以下コロナ)の影響下において、社会全般の働き方にどのような変化が起きていると捉えていますか?

    まず、緊急事態宣言の中でオフィスの無い世界がやってきたこと。つまりは家しかない世界になったということが、とてつもなく大きな変化の起点になったと思っています。「Stay Home」という言葉にも象徴されるように、おそらく、人類がこれだけ自身の住まいのことを真剣に考えた機会は、これまでなかったんじゃないでしょうか。

    社会的な不安という観点では東日本大震災の時と共通する部分もありますが、当時とコロナ禍とで異なるのは、個々人が「より本質的な選択をして生きていくんだ」という想いを強くしたところにあると感じています。多くの人が、「会社に行くこと自体が仕事の価値ではない」と気付いたり、「もっと家族を大事にしなければいけない」と認識を強めたり。これから何を大事にして生きていくのか、一人ひとりが人生の優先順位を見つめ直して、エッセンシャルな生き方を選択するようになったこと自体が、働き方の変化という部分でも大きな意味を持ったのではないかと思いますね。

    ──現在では、多くの企業がリモートワークの導入などを進めていて、いわゆる“新たな働き方”が広く浸透し始めています。リモートワークにうまく適応できていないという組織や個人の方にとっては、どのようなことが障壁になっているのでしょう。

    障壁のひとつは、社内規制や通信環境などの基盤づくりにあったと思っています。現状、通信インフラの整備レベルやリテラシーが個人間で大きく異なるケースがあり、それが作業効率やコミュニケーションレベルの差にも繋がってしまっているのでしょう。

    もう一点、さらに大きな障壁として挙げられるのが、人の気持ちそのものです。つまりは、頭の中にこれまでの“当たり前”や“前例”が固定観念としてこびりついていて、新しい働き方へ意識を変えることが難しくなってしまっている方が少なからずいらっしゃるということ。上司の視点を例に挙げるとするなら、「指示したものがしっかり自分まで上がってこないんじゃないか」「仕事へのモチベーションが維持できないのではないか」などの懸念があります。

    ただし、これらの懸念は、今回を進化する機会だと捉えて、業務プロセスも含めてゼロベースで考えれば、ほとんどが拭い去れるものであるはずです。実際に、リモートワークを取り入れてうまくいっている企業が今はたくさんあるので、そういったケーススタディをどんどん移植して、新しい働き方への移行することで企業競争力を向上させることができると思います。

    ──ちなみに、コロナ禍における新しい働き方として、横石さんが注目している事例などはありますか?

    長い間一緒に仕事をさせてもらっている知人の話ですが、先日リモート会議をした際に、「実は半年前から沖縄に移住してるんだよね」と言われて驚いたことがありました。毎週のように会議していたのに言われるまでは移住したことにまったく気づかず(笑)。つまり、今はそれぐらい働く場所がシームレスになっているということでもあります。

    言い換えれば、コロナ禍で、「住む」という概念自体がアップデートされてきているとも言えるでしょう。これまでは「住む」=「定住」だったものが、沖縄だろうと、東京だろうと、それこそ海外だろうと、複数の地元をもつことができる状態になる。こういった事例は、今の時代においてまったく不思議ではないと思いますし、今後増えていくとも思っています。

    加えて、これまで「ワークライフバランス」と言われていた概念が、今後は「ワークライフブレンド」へと変化していくのではないかとも思っていますね。これはすなわち、ワークとライフとの間に線引きをするのではなく、すべてが溶け合い混ざっている状態です。組織の時代から個の時代に向かっていく中で、ワークライフブレンドへと変化していくことはとても自然な現象なので、この新しい価値観を受け入れられるかどうか、そして楽しめるかどうかが、これからの“働く”や“暮らす”を充実させることにも繋がるのではないでしょうか。

    働く場所から住まいを選ぶ時代は終わりつつある

    ──「住む」の概念がアップデートされてきているというお話もありましたが、実際の生活拠点やワークスポットとして住まいを見た際に、そこにはどのような変化が起こっていると感じていますか?

    大きな変化としてはまず、住まいを選ぶ際の判断材料の優先順位が変わったことが挙げられると思います。これまでは会社や職場がまずあって、アクセスの良さなどに合わせて住まいを決めていたものが、リモートワークが当たり前になることによって、自分や家族のありたい姿を考えてから働く場所を選べるようになります。つまり、どこに住むかよりも誰と何をするかが重要になってきます。

    例えば、家族や仲間で畑を耕しながら自給自足に近いカタチで生活をしていきたいと思っていたら、今の仕事を辞めずに移住することだって可能になります。昨今の「職住一体」や「二拠点移住」、「ワーケーション」といったキーワードも、そういった住まいに対する意識の変化からなる新しい感覚から生まれてきているものなのかなと感じています。

    ──自身の住まい、いわゆるプライベートスペースが職場になるということに対して、横石さんはどのような部分が利点だとお考えでしょう。

    第一は、住まいで働くことによって、空間と時間の束縛から逃れられるということですね。それはつまり、仕事と向き合えるようになることでもあります。これまで移動時間や待ち時間に費やしていた時間が省略できるぶん、やらなきゃいけない仕事に集中できるのは大きな利点と言えるでしょう。

    加えて、いわゆるライフの部分に寄り添いながら働けるようになったことも大きいと思います。本来、やらなければいけなかった家事や掃除、子育てなど、これまで後回しにしていたことにちゃんと向き合えるようになったことは、僕自身とてもよかったと思っています。ただし、時と場合によっては、ワークライフブレンドどころか、ワークライフカオスになってしまうこともあります。自粛中は、子どものお風呂を入れながら、ミーティングしたこともありました(笑)

    ──では一方で、住まいと職場が一体になることの欠点、ないしは課題というのはどのような部分だとお考えでしょうか。

    課題は、リモートでのやりとりの中で、社内チームのコミュニケーションや顧客満足度といった部分を納得のいくレベルで担保したり、向上させていったりするのが難しい点だと思っています。

    そもそも、オフィスにはコンセントレーションとコミュニケーションという2つの機能がありますが、前者に関してはオフィスが無くても十分に可能です。ただし、後者のコミュニケーションに関しては、リモートでは限界があることも事実。

    こういったコミュニケーション面での不足をどのように解決していくかは現代の前向きな課題でもあるので、今後のテクノロジーの進化に期待をしたいところです。実際に、最近ではバーチャルオフィスをつくることができる常時接続型のサービスなども増えてきていますので、それらを利用するというのもひとつの手だと思います。

    職住環境をより良くする、住まいの新たな可能性に期待したい

    ──横石さんが支配人をされている鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」には、瞑想ルームがあるというお話を伺ったことがあります。こちらはどのような理由から設置されたお部屋になるんでしょう。

    瞑想ルームは、あえて目的を設けないための部屋と言いますか、働く空間の中に余白を設けるために作ったスペースなんです。一畳ぐらいの広さで、ただ石が置かれているだけの真っ暗な部屋ですが(笑)。ちなみに、ニューヨークにある国連にも瞑想室があり、そちらも石が置かれているだけの部屋があります。

    個人的には、そんな余白のスペースがあるかないかも、働く場としては大切な要素だと感じています。例えるなら、ドラえもんに出てくる空き地のような場所。みんなが遊べる公園にもなれば、ジャイアンのためのカラオケのステージにもなる。いわば、何にでもなる場所であって、何でもない場所なんです。だから予想を超えて、偶発的なことが起こりやすくなるんですね。

    効率化だけを考えれば目的にあわせたハイスペックな環境をひたすら構築することもできますが、住まいの中に、そんな何でもない、何にでもなれる場所があるかどうかも、これからの住まいにおいては新たなキーワードになるかもしれません。日本家屋で考えれば、縁側や土間みたいなスペースに可能性を感じます。

    ──そのほか、職住一体という観点から、これからの住まいに求められる要素としてはどのようなものが挙げられるとお考えでしょうか。

    当たり前に聞こえるかもしれませんが、ちゃんと日光が差し込んで、ちゃんと緑があるといったような、人間らしい暮らしができる場であることが、とても重要なことだと思っています。というのも、リモートワークの拡大に際しては、今後確実に、「健康」というものが社会的なキーワードになってくるからです。実際に、アメリカでは自宅用の運動マシーンが売上を伸ばしていますし、野菜などを生産者から直接購入するサービスも増えています。日本においても、リモートワークを前提にした予防医療だったり、健康管理を担うためのサービスや空間づくりが、これからはより重要になってくるでしょう。

    日本の住まいは海外に比べると狭いので、十分な運動ができるスペースがなかったりします。であれば、これからはワークスペースを自宅のみに縛らなくていいよう、アドレスホッピングするように、複数の拠点を転々と移動しながら働けるサービスなどが生まれたら面白いのではないでしょうか。それこそ、髙松建設グループで管理している日本全国のマンションをサブスクリプション契約で使えるようなサービスができたら、より柔軟に働ける人は増えると思います。

    ──働き方の変化にあわせて、これまでにない新しい住まいのカタチや、それに付随する新しいサービスのニーズが高まるのではないかと。

    住まいが変わるから働き方が変わるとも言えるかもしれません。住まいの種類やカタチはもっと柔軟になり、選択肢があればいいなとも思いますね。日本の住居は、狭さもありますが、基本的に同じような間取りが多いうえに、平準化された設備や機能なので選べる幅が多くありません。そもそも共働きの夫婦が働く場としての用途では考えられていませんから、プライバシーの確保を考えてもなかなか難しさを感じます。

    もちろん十分な間を確保できる部屋であれば問題ないと思いますが、日本の従来的な住まいで広さを確保できない一方で、「そもそも部屋を壁で隔てる必要があるんだっけ?」といったように、これまでの住まいの当たり前を疑ってみることも必要かもしれません。

    それこそ、部屋単位ではなく書斎型ブースのようなものを置くなど働く場のバリエーションを増やすのもいいでしょう。もしくは、間仕切りをつくらないワンフロアがシームレスになったオフィスがトレンドになったことがありましたが、間仕切りのない家の可能性もあるかもしれません。そういったワークとライフがうまく混ざりあったような住まいがもし実現できるのであれば、それは職住一体の住まいとして、ひとつの究極系になると思っています。

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